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公開日: 2026-10-23 • 約3分で読めます (1,254文字)

観測されるまで、未来は重ね合わせだった――量子×LLMの小さな実験と『人間失格』

LLMに量子回路の生成と解説を担わせる小さな実験を1024ショットの実測で検証し、ベル状態のもつれを確認した。重ね合わせの比喩を太宰治『人間失格』の葉蔵と生成AI時代の「演じる自分」に重ね、公開すること自体を観測=選択と捉え直す論考。

はじめに ― 生成される「自分らしさ」という重ね合わせ

生成AIは、もっともらしい自分をいくらでも生成する。立派なエンジニアの顔、研究者の顔、投資家の顔。どれも嘘ではないし、どれも本当ではない。量子力学の言葉を借りれば、それは重ね合わせの状態にある。観測されるまでは、複数の未来が同時に存在している。

では、実際に観測してみたらどうなるのか。LLMに量子回路の生成と解説を担わせる小さな実験を作り、1024回ずつ測定してみた。本稿はその実験記録と、太宰治『人間失格』を重ねた小さな論考である。

実験 ― LLMが回路を書き、シミュレータが観測する

依存ライブラリは numpy のみ。状態ベクトルシミュレータで3つの回路を実行した。回路の提案と結果の解説はLLMが担い(本稿の v0.1 では生成済みの回路定義を内蔵)、実測値は理論値と照合して検証している。

回路測定結果(1024ショット)意味
量子コイン0: 511回 / 1: 513回重ね合わせ。観測まで結果は決まっていない
ベル状態00: 502回 / 11: 522回(01・10は0回)量子もつれ。片方が決まれば、もう片方も決まる
GHZ状態000: 511回 / 111: 513回(それ以外は0回)完全な相関。一つの選択が全体を決める

すべて理論通りの結果だった。特にベル状態で 01 と 10 が一度も現れなかったこと。これが、離れたもの同士が結びつく量子もつれの姿である。重ね合わせは観測の瞬間に一つの現実へ収束する。その当たり前を、数字で目の当たりにすることに実験の意味があった。

なお次段階(v0.2)では、回路生成を Amazon Bedrock の Claude 呼び出しに差し替え、その場でLLMが回路を書く実機版に進む予定である。

『人間失格』と重ねて ― 葉蔵はなぜ選べなかったのか

大庭葉蔵は、人間を演じ続けた男だった。本当の自分は誰にも見せられない。だから道化を演じ、観測される自分だけを器用に作り替える。『人間失格』が今も刺さるのは、それが昭和の私小説ではなく、SNSと生成AIの時代の予言のように読めるからだと思う。

生成AIが生成する自分らしさは、重ね合わせのままではただの可能性に過ぎない。葉蔵が壊れていったのは、演じる自分と観測されない自分のあいだで、どちらか一方を選ぶことができなかったからではないか。逆に言えば、選ぶという行為そのものが観測なのだ。公開する、応募する、作ったものを世に出す。その瞬間、重ね合わせは一つの現実に収束する。格好悪くても、それが生きるということなのだろう。

まとめ ― 完成度3割で世に出す理由

だから、完成を待つのをやめることにした。完成度三割の実験を、こうして外に出す。それは観測であり、宣言でもある。

観測されるまで、僕は両方だった。でも今日から、片方で生きていく。


量子×LLMミニ実験室 v0.1 / 実験コード: quantum_llm_lab.py(numpy のみで実行可能)/ 実測データはシミュレータによる1024ショット測定結果

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Ryohei Yaginuma

Engineer & Author

クラウド(AWS)・Web技術の実践アーキテクチャから、現代物理学(超弦理論・数理物理)、古典・ビジネス名著の構造的解読まで、「知のOS」をアップデートする論考を発信しています。

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