共形場理論(CFT: Conformal Field Theory)の最も基本的かつ強力な特徴の一つが、「対称性だけで2点関数や3点関数の関数形が完全に決定されてしまう」という事実です。
本記事では、Madalena Lemos 氏による4次元超共形場理論の講義録:
“Lectures on chiral algebras of N≥2 superconformal field theories” (arXiv:2006.13892)
の第1章 p.3〜4 に登場する Exercise 1 を題材に、スカラープライマリ演算子の2点関数(および3点関数)がどのように固定されるかを、数式の行間をすべて埋めて徹底的に解説します。
※本記事は、入門解説記事 【解説】4次元超共形場理論と2次元カイラル代数の架け橋(1) の詳細な数理補足・演習解説となっています。
目次
1. 演習問題(Exercise 1)の内容
講義録(arXiv:2006.13892, p.3-4)の記述を確認しましょう。
Exercise 1.
Oi をスカラープライマリ演算子とする。共形不変性により、2点関数が以下の形に制約されることを示せ:
⟨Oi(x1)Oj(x2)⟩=x122ΔiδΔi,ΔjCij
ここで Cij は対称性では固定されない定数である。また、ユニタリなCFTでは演算子の基底を取り直すことで Cij=δij とできることを示せ。さらに、3点関数の関数形:
⟨O1(x1)O2(x2)O3(x3)⟩=∣x12∣Δ1+Δ2−Δ3∣x13∣Δ1+Δ3−Δ2∣x23∣Δ2+Δ3−Δ1λ123
を導出せよ(Simmons-Duffin [2] の Exercise 2 に相当)。
この演習の核心は、「なぜ異なる共形次元を持つ演算子の2点関数は直交するのか(δΔi,Δj が出るのか)」、そして「なぜ距離のベキ乗が 2Δ に厳密に固定されるのか」にあります。
2. スカラープライマリ演算子と共形変換
まずは準備として、d 次元ユークリッド空間における共形代数の生成子と、スカラープライマリ演算子の振る舞いを確認します。
共形代数 so(d,2) の生成子
共形変換群は、ポアンカレ変換(並進と回転)に加えて、スケール変換(ディラテーション)と特殊共形変換(SCT: Special Conformal Transformations)を含みます。微分演算子としての表現は以下の通りです:
Pμ=−i∂μ
- ローレンツ回転 Mμν:
Mμν=−i(xμ∂ν−xν∂μ)
D=−ixμ∂μ−iΔ
Kμ=−i(2xμxν∂ν−x2∂μ)−2ixμΔ
💡 【補足:スピン生成子の寄与 (Σμν) とは?】
量子力学で全角運動量が「軌道角運動量 + スピン」 (J=L+S) で表されるのと同様に、場の量子論におけるローレンツ回転の生成子 Mμν は、一般の演算子に対して次のように作用します:
[Mμν,Oa(x)]=座標の回転(軌道部分)−i(xμ∂ν−xν∂μ)Oa(x)+成分の混ざり合い(スピン行列)(Σμν)abOb(x)
ベクトル場 Aμ(x)(スピン1)やテンソル場 Tμν(x)(スピン2)のように矢印や向き(添字)を持つ場は、座標の回転だけでなく、場の成分同士がスピン行列表現 Σμν によって回転・混合します。これに伴い、特殊共形変換 Kμ の一般形にも末尾に −2ixνΣμνO(x) というスピンの項が現れます。
しかし、本演習で扱うスカラー演算子(スピン0)は向き(自転)を持たないため、このスピン行列が恒等的にゼロ(Σμν=0)となります。そのため、微分項とスケール次元 Δ だけで構成される上記のようなシンプルな式になります。
プライマリ演算子の定義
場の量子論において、真空 ∣0⟩ は共形不変である(すべての共形生成子によって消滅させられる)と仮定します:
Pμ∣0⟩=Mμν∣0⟩=D∣0⟩=Kμ∣0⟩=0
共形プライマリ演算子(Conformal Primary Operator) O(x) は、原点 x=0 において特殊共形変換の生成子によって消滅させられる演算子として定義されます:
[Kμ,O(0)]=0
これを任意の座標 x へ並進させると、一般の点における交換関係は以下のようになります:
[Pμ,O(x)]=−i∂μO(x)
[D,O(x)]=−i(xν∂ν+Δ)O(x)
[Kμ,O(x)]=−i(2xμxν∂ν−x2∂μ+2xμΔ)O(x)
相関関数の共形不変性とは、真空期待値 ⟨0∣…∣0⟩ の中に生成子 Q∈{Pμ,Mμν,D,Kμ} を挟んだとき、真空の不変性 ⟨0∣Q=Q∣0⟩=0 から生じるウォード・高橋恒等式(Ward-Takahashi identity):
⟨0∣[Q,O1(x1)…On(xn)]∣0⟩=0
が成り立つことを意味します。
3. 2点関数の導出(アプローチA:無限小変換法)
それでは、2点関数 Gij(x1,x2)≡⟨Oi(x1)Oj(x2)⟩ に対し、順に対称性を課していきましょう。
ステップ1:並進不変性(Pμ)
並進生成子 Pμ に対するウォード恒等式は:
⟨[Pμ,Oi(x1)Oj(x2)]⟩=−i(∂1μ+∂2μ)Gij(x1,x2)=0
💡 【補足:なぜ「相対座標(差)の関数」になるのか?】
重心座標 x+≡2x1+x2 と相対座標 x−≡x1−x2 への変数変換を考えると、合成関数の微分(チェインルール)より微分の和は次のように重心座標の微分に一致します:
∂1μ+∂2μ=∂x+μ∂
したがって、ウォード恒等式は ∂x+μ∂Gij(x+,x−)=0 と同値になり、「相関関数は重心位置 x+ には一切依存しない」ことが分かります。
物理的にも、時空を一様に平行移動 x→x+a させたとき G(x1+a,x2+a)=G(x1,x2) が任意の a で成り立つため、a=−x2 と選べば G(x1,x2)=G(x1−x2,0) となり、2点間の相対座標(差) x1−x2 だけで決まることが直感的にも理解できます。
この微分方程式の解は、2点の相対座標 x12μ≡x1μ−x2μ のみの関数です:
Gij(x1,x2)=gij(x12)
ステップ2:回転不変性(Mμν)
スカラー演算子に対する回転不変性は、相関関数が座標の向きに依存せず、内積(不変量)のみに依存することを要請します:
gij(x12)=gij(∣x12∣)
ここで ∣x12∣=(x1−x2)2 は2点間のユークリッド距離です。
ステップ3:スケール不変性(D)
次にディラテーション D の作用を考えます:
⟨[D,Oi(x1)Oj(x2)]⟩=−i(x1μ∂1μ+x2μ∂2μ+Δi+Δj)Gij(x1,x2)=0
Gij が x12 の関数であるとき、
x1μ∂1μ+x2μ∂2μ=(x1−x2)μ∂x12μ∂=∣x12∣d∣x12∣d
となるため、方程式はオイラーの微分方程式になります:
(∣x12∣d∣x12∣d+Δi+Δj)gij(∣x12∣)=0
これを解くと、ベキ関数が得られます:
gij(∣x12∣)=∣x12∣Δi+ΔjCij
ここまではスケール不変性(ポアンカレ+ディラテーション)だけで導けます。しかし、これだけではまだ Δi=Δj の演算子同士がゼロになる保証はありません。
ステップ4:特殊共形変換(Kμ)と次元の一致
いよいよ特殊共形変換 Kμ を課します。これが共形不変性の真骨頂です。
⟨[Kμ,Oi(x1)Oj(x2)]⟩=0
作用素を書き下すと:
[(2x1μx1ν∂1ν−x12∂1μ+2x1μΔi)+(2x2μx2ν∂2ν−x22∂2μ+2x2μΔj)]∣x12∣Δi+ΔjCij=0
ここで微分の公式を用います:
∂1ν∣x12∣−α=−α∣x12∣−α−2(x1−x2)ν
∂2ν∣x12∣−α=+α∣x12∣−α−2(x1−x2)ν
(ただし α≡Δi+Δj)。
これを微分項に代入してカッコの中身を整理していきましょう。
- 第1点 x1 の項:
2x1μx1ν∂1ν−x12∂1μ=−α∣x12∣−α−2[2x1μ(x1⋅x12)−x12x12μ]
- 第2点 x2 の項:
2x2μx2ν∂2ν−x22∂2μ=+α∣x12∣−α−2[2x2μ(x2⋅x12)−x22x12μ]
両者を足し合わせると、内積の恒等式:
2x1μ(x1⋅x12)−x12x12μ−2x2μ(x2⋅x12)+x22x12μ=x122(x1+x2)μ
が成り立ちます!
したがって、微分項の和は劇的に簡単になり:
−α∣x12∣−α−2[x122(x1+x2)μ]=−(Δi+Δj)(x1+x2)μ∣x12∣Δi+Δj1
となります。
一方で、非微分項(Δ に比例する項)は:
2(x1μΔi+x2μΔj)∣x12∣Δi+Δj1
です。微分項と非微分項をすべて足し合わせると:
[−(Δi+Δj)(x1+x2)μ+2x1μΔi+2x2μΔj]∣x12∣Δi+ΔjCij=0
ブラケットの中身を x1 と x2 について整理すると:
(x1−x2)μ(Δi−Δj)∣x12∣Δi+ΔjCij=0
なんと、x1=x2 であるすべての座標でこの等式が成立するためには、
Cij(Δi−Δj)=0
でなければなりません!
すなわち、異なる共形次元を持つ演算子同士の2点関数は厳密にゼロになる(Cij=0 ならば Δi=Δj)ことが導かれました。
⟨Oi(x1)Oj(x2)⟩=∣x12∣2ΔiδΔi,ΔjCij
Q.E.D.
4. 2点関数の導出(アプローチB:反転対称性による鮮やかな解法)
上記の無限小変換の計算も明快ですが、共形ブートストラップの文献(例: Simmons-Duffin 講義録)では「反転(Inversion)」を用いた幾何学的アプローチが極めて好まれます。こちらも紹介します。
反転(Inversion)の幾何学的性質
特殊共形変換 Kμ は、実は「反転 → 並進 → 反転」の合成として表現できます。
反転変換 R は以下のように定義されます:
xμ→x′μ=x2xμ
このとき、計量は共形因子 Ω(x)=x2 を伴って変換されます:
dx′2=(x2)2dx2⟹Ω(x)=x2
スカラープライマリ演算子は反転によって以下のように変換します:
O′(x′)=(x2)ΔO(x)
また、反転後の2点間距離 ∣x1′−x2′∣ には美しい幾何学的恒等式があります:
∣x1′−x2′∣2=x12x22x12−2x1⋅x2+x22=x12x22∣x1−x2∣2
平方根を取ると:
∣x12′∣=∣x1∣∣x2∣∣x12∣
反転による2点関数の制約
ポアンカレ不変性から、すでに Gij(x1,x2)=∣x12∣Δi+ΔjCij まで求まっているとします。
2点関数に反転を施すと:
⟨Oi(x1′)Oj(x2′)⟩=(x12)Δi(x22)Δj⟨Oi(x1)Oj(x2)⟩
左辺に ∣x12′∣=∣x1∣∣x2∣∣x12∣ を代入すると:
(∣x1∣∣x2∣∣x12∣)Δi+ΔjCij=(x12)2Δi+Δj(x22)2Δi+Δj∣x12∣Δi+ΔjCij
これが右辺と一致するためには:
(x12)2Δi+Δj(x22)2Δi+Δj=(x12)Δi(x22)Δj
でなければなりません。任意の x1,x2 でこれが成り立つ条件は:
2Δi+Δj=Δiかつ2Δi+Δj=Δj⟹Δi=Δj
無限小変換の微分の和を計算することなく、距離の幾何学的性質だけで一瞬にして Δi=Δj が導かれました!
5. 演算子基底の規格化(ユニタリ性)
Exercise 1 の後半にある「ユニタリ理論において Cij=δij と選べること」を確認します。
同一の共形次元 Δ を持つプライマリ演算子が複数存在する場合、それらの2点関数は対称行列(エルミート行列) Cij をなします:
⟨Oi(x1)Oj(x2)⟩=x122ΔCij
- 実対称性: ボソン演算子の入れ替え対称性から Cij=Cji。
- 正値性(ユニタリ性): ユニタリな場の量子論では、反射正値性(Reflection Positivity)により、任意の実係数 vi による重ね合わせ演算子 Ov≡∑iviOi のノルム(2点関数)は正でなければなりません:
⟨Ov(x1)Ov(x2)⟩=x122Δ∑i,jviCijvj>0(∀v=0)
したがって、Cij は実対称正定値行列です。
実対称行列は直交行列によって対角化可能であり、さらに固有値はすべて正の実数です。固有値の平方根で各演算子をリスケール(グラム・シュミットの正規直交化)することにより:
O~i≡k∑(C−1/2)ikOk
新しい基底 O~i をとれば、係数行列を単位行列に規格化できます:
Cij→δij
6. 発展:3点関数の関数形の一意決定
演習の締めくくりとして、3点関数がどのように固定されるかも見ておきましょう。
3つのスカラープライマリ演算子の3点関数 ⟨O1(x1)O2(x2)O3(x3)⟩ は、ポアンカレ不変性から3つの距離 ∣x12∣,∣x23∣,∣x31∣ の関数になります。
一般形として以下を仮定します:
⟨O1(x1)O2(x2)O3(x3)⟩=∣x12∣α12∣x13∣α13∣x23∣α23λ123
反転変換 x→x′=x/x2 を施すと、各距離は ∣xij′∣=∣xi∣∣xj∣∣xij∣ と変換するため、左辺は各点 xk に対して (xk2)21∑j=kαkj というスケール因子を生じます。
これが反転の変換則における因子 (x12)Δ1(x22)Δ2(x32)Δ3 と各点で一致しなければならないため、連立方程式:
⎩⎨⎧α12+α13=2Δ1α12+α23=2Δ2α13+α23=2Δ3
が得られます。これを解くと一意に指数が決定します:
α12=Δ1+Δ2−Δ3
α13=Δ1+Δ3−Δ2
α23=Δ2+Δ3−Δ1
これにより、論文の式 (1.3):
⟨O1(x1)O2(x2)O3(x3)⟩=∣x12∣Δ1+Δ2−Δ3∣x13∣Δ1+Δ3−Δ2∣x23∣Δ2+Δ3−Δ1λ123
が導出されました!
7. まとめ
- 2点関数: 並進・回転・スケール変換でベキが決まり、特殊共形変換 Kμ(または反転)によって Δi=Δj のみが生き残る直交性が導かれる。
- ユニタリ性: 反射正値性により係数行列 Cij を対角化・正規化して δij とできる。
- 3点関数: 3点間距離の組み合わせ自由度が共形変換の3本の連立方程式と完全に一致するため、未定の定数 λ123(OPE係数)を除いて関数形が完全に決定される。
1点関数・2点関数・3点関数に対称性だけで解けない「自由な関数」は一切存在せず、CFTのダイナミクスは共形次元 {Δ} と OPE係数 {λijk} という純粋な数値データの集合(CFTデータ)にすべて還元されることが、この演習を通じて数学的にも実感できます。
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